今年も師走、いよいよ冷え込みが厳しくなってきました。初冬を飛び越え、いきなり本格的な冬に突入したようです。枝についたまま茶色に変色していたもみじの枯葉。先日の木枯らしで完全に吹き散らされてしまいました。早朝、店庭駐車場の白砂利は霜で凍結。再製工場内の気温は氷点下に。店前の天水桶には氷が張っていました。長く暑い夏から極く短い秋をはさんで、今年はどんな冬になるのでしょうか。今後のお湿りの具合も気にかかるところです。
先月、日本茶インストラクターの方から在来種の茶についてお問い合わせをいただきました。在来種に興味があって探しているのだが・・・との事。昨年私の書いたコラムを読んでいただいたようです。たしかに在来種をそのまま販売している茶店は極めて少ないでしょうね。
茶業界で「在来」と呼ばれる茶は2種類。一つは品種の種子を植えた「実生」と言われるもの。もう一つは日本に伝来して以来800年間(あるいは1千年以上)栽培されてきた純粋な(?)在来種。どちらも「品種ものではない」という意味では同じ扱いながら、内質は違います。実生は品種の特徴を反映し、あか抜けした印象。煎茶に仕上げるのも、他の品種と組み合わせるのもさほど難しくないように感じます。一方『純在来種』は繊維質が強く、上下の葉質が大きく異なり、とにかく仕上げづらい。火入れの許容範囲が狭く、度合いが過ぎると苦渋味が出る
etc.・・・。様々な品種が選べる現在、淘汰もやむなしかもしれません。狭山でも生産される荒茶の90%以上が品種化されていると思われますが、『純在来種』はどれほど製茶されているのでしょうか。
備前屋の取引先で唯一純粋な在来種園を所持している志喜地園の間野善雄氏。茶園は根通りの茶業公園に隣接した一等地にある茶畑。製茶機械は高林式粗揉機を含むライン。第一級の茶園と揉み過ぎない製茶法という、在来種にはぜいたくな栽培環境と理想的な生産設備です。逆に言えば、だからこそ在来種を維持管理・製造を継続する価値があるのかもしれません。
要望にお応えして早速再製に取り掛かりました。原材料は5月24日間野善雄製『純在来種』。出物の「あたま」は全て取り除き、熱風乾燥と炭火入れと2種類の火入れを施しました。どちらがお気に召していただけるでしょうか。
「紫匂う武蔵野の・・・」「ゆかりの色の紫にほふ 武蔵野野辺は・・・」 両者とも埼玉県西部地区にある県立高校の校歌です。武蔵野を代表する色「紫」。かって武蔵野は「江戸紫」の原料ともなった野草『紫草』に一面おおわれていたのがその由来とか。
武蔵野に育まれた狭山茶の起源を内に秘める『狭山純在来種』。せっかく単品で仕上げるのだから、新たに『紫草』と命名しました。それぞれの歴史を振り返れば、相応しいネーミングだと思いますが。
狭山茶専門店
備前屋 清水敬一郎