一昨年に続き、今年も五月中の入梅です。でも 今のところ、それらしき様子は全く感じられず。降り続くこともなければ、湿度が高く ジメついた日もありません。相変わらずこの周辺は雨の降りにくい気象状況にあるようです。茶畑のことを考えるとお湿りが欲しいくらい。それでも五月中に比べ、明らかに日差しが強くなり、空気が重くなったことを感じます。木々の緑が濃くなり、葉の繁った枝が重そうに見え、「山笑う季節」から「山滴る季節」に移り変わりつつあるようです。
一番茶が終了しました。取引先製茶工場の「焙炉始め」が4月25日で、仕舞が5月31日。一ヶ月と一週間の長いながい新茶期でした。三月の温暖な気象により、桜につられるように早々に始まった手摘み。一転、はさみ摘みは例年並みのスタート。低温と降雨不足が影響しました。生産量は特に下級グレードで少な目です。幸い備前屋の生命線である上物、特に萎凋香の荒茶は期待数量を確保する事ができました。
今年は一番茶のシーズンを通じ 陽光と風に恵まれ、萎凋工程に適した毎日でした。釜炒りの微醗酵茶は一番茶だけで、すでに昨年とほぼ同様の数量の生産が完了。生産家皆さんから多品種の生葉を提供してもらい、バラエティーに富んだ釜炒り製の荒茶がそろいました。
色々な品種を扱って感じた事。蒸し製では萎凋すると良いと言われている『さやまかおり』は地味目な香気で、正直期待はずれ。『ごこう』は煎茶同様ミルキーな香気。宇治生まれの碾茶品種だけあって上品な印象。『おくむさし』はどっしりとした味と乳香が特徴。なかなか魅力的です。意外に良かったのが『やぶきた』。華やかさはないものの 柑橘系の香気があり、端正な味。そして 白眉は『ふくみどり』。揺青作業中からその華やかな香気が作業場に満ち、その「アロマ」は他の品種とは次元が違う。贔屓を割り引いても、ほれ惚れするくらい香気が素晴らしい品種です。萎凋を控え目にすると『文山包種茶』のような花香を放ち、強めにすると香味共に濃度を増す。そんな萎凋工程に対する応答力も魅力です。蒸し製法で良好な萎凋特性を示す品種は、釜炒りでも期待を裏切らないという事を実感しました。
今年の微醗酵茶は茶葉の緑が一層鮮やかに感じる・・・ 緑茶産地の釜炒り製萎凋香茶にはふさわしい外観かもしれません。
狭山茶専門店 備前屋 清水敬一郎