台風9号の影響とはいえ待望久しい雨。いつ以来だろう?記録的な酷暑だけでなく、歴史的な少雨の夏でした。白露を迎えると同時に雨が降り、日中の気温が20度台に。流石というか、先人の季節に関する経験は素晴らしい!
辺りの緑が生き返ったように輝いています。
白露ではなく庭のブルーベリーに留まった雨粒
秋の気配の本格化とともに日本茶の美味しい季節がやって来ます。茶業人としてもうれしい時季。各種品評会の入札しかり。一個人としては熟成を始めた各種荒茶の再評価と品種の活用が楽しみです。これは茶産地で再製に携わる者の特権かも。先日「宮の尾」の再製から使い始めた「さやまみどり」はその代表格。
昭和28年に農林登録された「さやまみどり」は埼玉県で最初に生み出された品種。戦後の茶産地狭山を支えただけでなく、現在活躍中の「ふくみどり」を初め「ほくめい」「むさしかおり」等 新たに登録された品種のほとんどにそのDNAを伝える狭山茶のルーツと呼ぶべき「長老」的品種です。一目でツバキ科と判るつややかで葉肉の厚い個性的な生葉。製茶すれば葉肉の厚さゆえ、大柄で光沢に乏しい外観、黄ばんだ水色、「芋くさい」と形容される味etc. しかしその冴えない容姿の奥には抜群に濃厚な「滋味」と鮮やかな品種の香りが秘められており、再製での火入れがその個性を引き出します。
さやまみどり荒茶の抽出液
通常の品種とは異なり、火入れ度合いを上げるほどに味も香りもその個性を発揮する。まさしく火入れにこだわりを持った茶産地ならではの「狭山茶」的品種です。経済性の問題などで気息奄々なれど、その個性を愛する茶業人も健在。うちの取引生産家では市川喜代治君と小澤栄司君が栽培の継続に力を注いでいます。
さやまみどり荒茶の個性的な外観
厚い葉肉ゆえ細よれとはならず大柄の茶葉 黒い軸が極端に少なく、
黄ばんだ白く太い棒が目立つ。野暮ったい? 姿はいかにも“狭山茶的”
いよいよ季節到来。今年の「さやまみどり」はどんな個性を発揮してくれるのでしょうか。
狭山茶専門店 備前屋 清水敬一郎