山形県米沢市に行く機会がありました。ほど良い距離にある山々が市街を囲み、最上川が流れ、落ち着いた雰囲気が漂います。中心部には米沢城の石垣とお堀が残り、直江兼次が基礎を築き、上杉鷹山が再生を果たした米沢藩の歴史と文化を今に伝えています。ワンダーフォーゲルが趣味の友人が、大学の4 年間をすごし「話しきれないくらい好きだ」と語っていた街。首都圏の北辺、奥武蔵の山裾に暮らす私にとって、山のある風景に心が和みます。何とはなしに、共通の空気を感ぜずにはおれません。かって盛んであった繊維産業も埼玉県西部地区との共通点ながら、米沢ではまだ機屋さんが活躍中で、ベニバナ染め絹織物屋「新田」を見学しました。一口にベニバナ染めといっても単なる紅色だけでなく、様々な色のバリエーションがあり、染色技術の奥深さを感ぜずにはおれません。それにしても光沢があり、彩り豊かな絹糸の美しいこと。茶葉自体の色を追求する茶業界とは、全く異なる色彩の世界です。
「国際銘茶品評会」のメダルと賞状が届きました。「世界緑茶協会」が窓口となり、中国で開催された茶の国際コンテスト。出品財は『ゆめわかば』白茶。緑茶品種の個性を生かすため、緑色がかった外観に仕上げた緑の白茶は白茶発祥の彼の地でも、ひとまず評価の対象にはなったようです。
昨年、夏芽を一芯一葉摘みして試作したのが「白茶事始」でした。その工程は 萎凋 → 乾燥 だけの単純なもの。「紅茶の品質は8 割が萎凋で決まる」と言われるけれど、揉捻工程すらない白茶は萎凋の良し悪しが そのまま品質を左右します。「月の光で萎凋する・・・」という話を聞いたことがあります。それだけデリケートな萎凋作業が要求されるという事でしょうか。少なくとも天日萎凋はご法度に違いありません。このときは30 時間をかけ、水分減少率68.3%にまで萎凋を遂行。屋内だけの萎凋は初体験でした。
中国の大葉種に比べ 芯が華奢な日本の緑茶用品種ならば、その特長である茶葉の色彩が生かせるようにと、一芯三葉で手摘みを実施。今期は春芽の『ゆめわかば』を使用。直射日光を避け、かつ萎凋時の気温に配慮したため、一番茶での製造となりました。静置萎凋59 時間、水分減少率67%。緑色の白茶が完成しました。
中国の『白牡丹』とも全く異なる外観。芯は小柄だけれども、白毛が目立ちます。ほんの僅かに褐色のかった、あわい淡い琥珀色の抽出液。茶葉からは濃度ある萎凋香が漂います。香気に抑揚が欠けるのは、天日萎凋を省いたためでしょうか。そして真骨頂は ありとあらゆる苦渋味から解き放たれた、その味にあります。抽出液が喉をすべり降りると、その瞬間 口中に萎凋香が響き渡り、遠くで鳴る鐘のように、その余韻がいつまでも続きます。
なぜか 手揉み茶に一脈通じるその味わい。一切「揉み」を施さない白茶に対し、「揉み」の技術を極限にまで駆使した手揉み茶。手法は対極にあれど、茶葉の「葉切れ」を嫌い、抽出液の内質を追求した点では共通するものを感じます。
狭山茶専門店 備前屋 清水敬一郎