11月度.png今日は立冬。長期予報では冬の訪れが早いとか。10月にずれ込んだ秋の長雨も終わりを告げ、秋たけなわとなりました。庭のもみじはまだ色を変えませんが、木枯らしの季節はそこまで来ているかもしれません。

 

この時期になると気になる品種が「おくむさし」です。狭山の登録品種第2号。第1号「さやまみどり」と奈良県在来実生品種「やまとみどり」との交配種で、昭和37年農林登録。昭和期の茶産地狭山を支えたもう一つの品種…とはいえ どの程度普及したものなのか? 知る限りでは「さやまみどり」ほど茶業者の話題に上ることもなく、残念ながら生産家にも茶商にもこの品種に携わってきた人はそれほど多くないように思われます。私が茶業界に入ったおくむさし萎凋工程.jpg昭和末頃すでに絶滅危惧種に近い状況で、現在周辺で栽培しているのは3人のみ。栽培面積もごく限られたもの。幸い備前屋では駒井孝志君が管理している入間市の茶園から生葉の提供を受け、この希少種の取り扱いを継続しています。
平成22年5月28日 萎凋中のおくむさし新芽
ふくみどりより重量感のある萎凋香が辺りに漂います


「おくむさし」にこだわる理由はその良好な萎凋性能にあり、「さやまみどり」から受け継いだ良質なDNAを実感します。つやのある丸みを帯びた葉型で肉厚があり、垢抜けない外観。摘採期が遅く・短く、収量の少ない点もそっくり。それどころか「さやまみどり」よりずっと晩生で、はるかに生産性が劣り、その上耐寒性も乏しい。昭和の高度成長期にあってその低い経済性では淘汰もやむなしだったのかもしれません。
一方、萎凋した「おくむさし」の味は実に実に個性的で「The 狭山茶」と呼べるほどに濃厚。渋いのではなく、あくまでも濃い。こんなに味の強い日本茶があってよいのだろうかと思うほど。そして萎凋の余韻が口中に響き、存在を主張します。なくしてはならない希少な狭山茶の味です。おくむさし外観.jpg

5/28駒井孝志作「おくむさし」仕上品  「さやまみどり」より色が濃く 厚い葉肉を反映し細よれしない茶葉  この冴えない外観の内側に とてつもない味を秘めている


 この品種にふさわしいのは備長炭を用いた火入れだと考えています。炭火の強火が「おくむさし」の個性を、「The 狭山茶」の味を余すところなく引き出すことでしょう。


                   

            狭山茶専門店 備前屋  清水敬一郎