春の彼岸を過ぎ、一気に春めいてきました。開花した桜があっという間に五分咲きに。雪の多かった今年の冬。3月も低温が続き、遅れていた梅の花ですが、店庭の枝垂れが先日やっと満開を迎えました。樹下では梅の香がそよ風にただよい、やっと訪れた春を実感します。本来梅は比較的長く楽しめるのに、先週末の風雨ですっかり散ってしまいました。梅と桜の同居はなかなか難しいようです。明日からは四月。新年度、新学期の始まり。狭山の新茶期も近づいてきました。昨年は4月中に手摘みが始まったけれども、今年はどんな具合になるでしょうか。
先日 新品種の求評会が催されました。埼玉県茶業研究所に依頼して、私達 茶商向けに開催されたものです。今年の初め、私の所属する狭山茶商工業組合の行事に試験研究所長が出席された折り、新たに品種登録出願された品種について説明がありました。せっかくなので、生産者向けだけではなく、流通に携わる茶業者にも試飲会を! という要望で実現しました。
昨今 登録申請される品種は経済性、品質、病害虫の耐性等 栽培上のハードルを全てクリアしたものに限られます。つまり生産面では何ら障害がなく、普及するか否かは需要次第。その鍵を握るのは「嗜好」。当該品種が消費者に受け入れられるかどうか。言い換えれば、狭山茶を商品として世に送り出す茶商の「嗜好」に合う要素を持っているかどうかが重要です。流通の最前線にいる茶産地の茶商達が、新たな品種を知るのは意義深い事に違いありません。
今回 求評会の対象になるのは『おくはるか』。『やぶきた』より7日から10日遅い、極端な晩生種。母系に『さやまみどり』が存在し、埼玉県で開発される典型的な系統の品種に思われます。最たる特長は桜に通じる、特有の香気にあるとの前触れでした。おくてで桜の香り→春の香がある品種というのが命名動機とか。昨年の大河ドラマ『八重の桜』と そのヒロインを演じた綾瀬はるか から名付けたのではないか、との想像は俗に過ぎるでしょうか。
当日は茶業研究所と生産家が栽培・製茶した荒茶と仕上茶5種類が用意され、研究所からはほとんどの技師が出席。十数名の茶商が、見本盆での外観と拝見による香気・水色・滋味の評価を行いました。茶商らしく、仕上や火入れに関する意見も多く寄せられていました。
確かに、桜がほのかに香ります。萎凋したらどんな香気の茶になるのか、興味津々。『さやまみどり』が祖先の系統だけに、大いなる可能性を感じます。
狭山茶専門店 備前屋 清水敬一郎