武蔵野の冬は乾燥した北西の季節風が吹き渡る風の大地です。ところが今年はまだ木の葉を踊らせるような木枯しが吹かず、雑木林も奥武蔵の山々も針葉樹の緑と色の変わった落葉樹の葉が入り混じり、晩秋の気配を漂わせています。
紅葉(?)の残る日和田山
新年を香り高い狭山茶でお迎えいただきたく、産み出されたのが正月新茶です。最初に手がけたのは平成になってすぐの頃。当初の主役は「やぶきた」の萎凋香。冬、気温がぐっと下がってくると「根通りもの」のように高品質の狭山茶は熟成が最高潮に達します。香味ともに新茶期よりも向上。味は濃度を増して奥行きが広がり、香気は冴え、特に萎凋香は明らかにグレードアップ。これを再製し、適度な火入れを加えれば新茶期のさわやかさとは一味違う、香り豊かな狭山茶が誕生します。
現在では「ふくみどり」が加わり、萎凋香のバリエーションが拡大。荒茶の選択肢も飛躍的に増えました。そこで萎凋香「やぶきた」と萎凋香「ふくみどり」を個別に仕上げ、火入れを行います。なぜなら「ふくみどり」は「やぶきた」に比較し、圧倒的に火が入りやすい品種なのです。萎凋香荒茶同士でも、葉肉の厚みが異なる品種では火入具合も変えて然るべきもの。これにより萎凋香あふれる二種類の煎茶が誕生。さらに両者の萎凋香を引き立て、味にさらなる奥行きをもたせるよう、ほんのり「火入れ香」の白萩を合組し、正月新茶平成22年度バージョンが完成です。
黒い軸が目立ち 端正な正月新茶の外観
香り高い材料を使用する合組ではほんの5%の組合せをいじっただけで、がらっと表情を変えることがあります。今回は3種類の組合せにもかかわらず、合組の最終決定までには合計8回の口合(くちごう:テストブレンド)を行いました。
狭山茶専門店 備前屋 清水敬一郎