師走も半ばを過ぎ、寒波到来。店庭の色彩がいよいよ乏しくなったところで、お客様から蝋梅をいただきました。まだ季節が早いためか花の色が淡く、それだけに蝋細工のような光沢がいっそう目に留まります。まるでつくりもののような花弁。それなのに鮮やかな香りを放ち、不思議な雰囲気を漂わせる花。控えめな色沢がかえって美しさを引き立てているように感じます。
お歳暮も一段落でお年賀用品仕込みの時季。手摘み「ふくみどり」を再製しました。「ふくみどり」は従来とは異なり、当時には珍しく名前に地名を含まない登録品種です。ひょっとして全国の茶産地に広める自信作だったのかも。それにしても「福・緑」とは緑茶品種として、これ以上を望めないほどめでたいネーミング。新春を祝うのに最適な品種です。
今回は「松籟」のふくみどりバージョンとして、5月4日宮岡豊製と5月9日島田貴庸製を個別に再製。宮岡君の「ふくみどり」は香味の調和が絶妙。島田君のは土地柄でしょうか、香気がずば抜けています。
「ふくみどり」の良さは香りのよさ。萎凋香と品種香が一体となり、嗅覚だけでなく味覚でも香りが楽しめる貴重な品種。さらに「手摘みもの」には、熟成を重ねた萎凋香に野木園固有の厚みのある滋味が加わります。ところが「ふくみどり」には表裏で色の違う棒があり、きれいに除茎するのが難しく、また茶葉の緑色が浅い品種。品評会に向かないこともあり、「手摘みもの」の生産は限定的。今年度「ふくみどり」を手摘みした生産家は十指に満たないかもしれません。希少品ゆえに再製にも熱が入ります。
この時期に手摘み「ふくみどり」を仕上ると、篩の上で空気とふれあった茶葉からすぐに萎凋香がただよい始め、火入れ時には香水を振りまいたような艶やかな香気に工場が満たされます。再製作業の上首尾を確信する瞬間であり、再製担当者至福のひとときです。
蝋梅のように、つつましい外観ながら鮮やかな香気をもつ「ふくみどり」。ともに寒い季節にそっといろどりを添える貴重な存在です。