今回のツアーで、主に滞在したヌワラ・エリヤは標高1,800mの冷涼な地で “High Grown Tea”の茶産地であり、駅周辺の山にも斜面には茶畑が広がっています。イギリス統治時代は避暑地として栄え、リゾート地でもある美しい土地。現在でも当時の建造物が多く残り、「リトル・イングランド」とも呼ばれる、落ち着いた街です。宿泊した宿も総督の別荘だったという建物。とても個人の別荘とは思えない規模と造り。さらに庭園も素晴らしく、総督の力と富の偉大さを思い知らされます。ホテル内のバーも落ち着いた、シックな雰囲気。早速一献と思っていたら、最初の晩は生憎なことに、満月の夜でした。熱心な仏教国でもあるスリランカでは、満月の日は「ポーヤデイ」という祝日で、たとえ外国人旅行者であっても、アルコールは一切禁止の日。月に一度の休日に巡り合ったのも、貴重な体験かもしれません。それにしても、夜の冷え込むこと。日中は半袖でちょうど良いものの、夜は暖房のお世話になりました。
ヌワラ・エリヤでは二ヶ所の茶園を見学。その中で、興味深かったのがペドロ茶園(Pedro Estate)でした。製茶工場は標高1,910mに位置する、19世紀創業の歴史ある茶園。建物は山頂の一番高いところに位置し、四方の茶畑を見下ろしています。
この茶園でつくられる茶の特長はオーソドックス製法に加え、“Light Bright Black Tea”という、他所にはない製法を行っていること。具体的には、醗酵工程を設けないのだそうです。そういわれれば、醗酵台がなかっただろうか? 工場内は撮影禁止だったので、確認はできないのだけれども・・・。醗酵を省く製茶でも、萎凋は通常通りでした。萎凋時間・萎凋度も他との差は全くない。ただ一点、気づいたのは、加温を全く行わない事。それまで見学したところでは、熱風・温風を利用する茶園が多かったので・・・。案内してくれた、サブ=マネージャーによると、外気温が低い方が茶は高品質になり、萎凋に最適な気温は15℃なのだとか。それゆえでしょうか、ヌワラ・エリヤのクオリティシーズンは冬の12~4月だそうです。
スリランカで意外に思ったのが、茶葉の摘採について。もちろん、手摘みなのだけれど、かなり雑。紅茶というと、一芯二葉を想像していたのに、日本では考えられないほど巨大な四葉・五葉目も当たり前の印象。ところが、この茶園で萎凋されていた茶葉は美しく、良好な摘採状況でした。品種なのか、肥培管理なのか、それとも教育なのか? ちなみに、 揉捻(rolling) 工程では、基本的にローターバン(Rotabane) は使用しないとの事… 確かに必要ないかも・・・ 納得です。
購入したFBOP。帰国後、試飲してみました。開封すると、鮮やかな香気が立ち昇ります。蒸し製や半醗酵でいうところの、「フルーティーな」という表現では控え目に過ぎる。「青リンゴのような・・・」と言ったら陳腐でしょうか。外観は実にカラフル。醗酵工程がないため、萎凋時の色がよく判る茶葉です。焦げ茶、茶、橙、緑、白・・・ 「東方美人」を思い出します。水色はオレンジ色がかった、淡い色。濃度はあるのに、透明度が高い、不思議な色。抽出液でも萎凋香がわかり易い。もちろん、ストレートティで楽しむ紅茶でしょう。
これは、徹底的に差別化されたセイロンティー。醗酵工程を経ない全醗酵茶があるのですね。クオリティシーズンには、どのような製品ができあがるのでしょうか ?
狭山茶専門店 備前屋 清水敬一郎