週末ごとに雨になる。九月の末より、このローテーションがキチッと守られている今年の秋。行楽地やイベントを企画している自治体や団体は、さぞかし気を揉んでいることでしょう。先々週末の「全国お茶まつり」もあいにくの天候でした。せっかく、全国の茶業者が集結したのに…。私も本山茶の産地巡りに参加したものの、傘が手放せず、茶畑の先の山は霞んでいました。案内してくれた生産家曰く「本山茶は葉肉が薄いので、蒸しは30秒くらいの短時間で…」。エッ! 山の茶って葉肉が厚いのかと思っていたのに… なるほど、それで本山茶は形状が良くて、茶葉が緑色で、火入れが強いのか… 実に興味深い内容でした。
先週末は、秩父御岳神社のある吾野 東郷公園の「紅葉まつり」に行って参りました。日照不足か、温暖な気候のせいか、落葉した葉が多く、色づき具合も今一つ。幸い、雨には降られず、しかも冷え込まず。ライトアップされた木々と、ジャズのライブを楽しんできました。女性ボーカルが格段にレベルアップしていてビックリ。なんと、CDデビューを果たしたそうです。すばらしい!
狭山市の農業祭用に手火入れを行いました。原材料は市川喜代治作『さやまみどり』。この時期、恒例の作業となりました。ただし、例年とは若干の違いがあります。それは、茶葉の蒸し度の件。今年度新茶のテーマは「蒸しの適正化」。具体的には、蒸し度を下げる事。ここしばらく、茶の外観が小さく、細かくなったように感じていました。他店、他の生産家の狭山茶も同様で、「とび」を含む煎茶が皆無に近い。最近の狭山茶は深蒸し茶ばかり…。その原因は乗用式摘採機の普及かもしれない、と気づいたのが昨年の夏。摘採面の芽揃いが均一化し、結果的に蒸し度が上がっていたのではないかと結論付けました。
農林登録第1号の『さやまみどり』は葉肉が厚く、下葉が大きいため、本来は蒸し度を上げ塩梅で製茶したいところです。事実、昨年度のものは作柄も出来具合も過去最高で、味も水色も秀でていました。蒸し度を下げた今年度産は大柄な下茶が目立ち、いささか あか抜けない外観に拍車がかかります。水色も今一つ。それでも、味は濃厚で香気も上々。「摺り火」という、助炭面に茶葉を擦りつける 狭山固有の工程を含む手火入れでは、茶がくずれ易く、外観は大き目が良い。繊維質の多い『さやまみどり』ではなお更です。ほいろ使用の手火入れは、ムレが皆無。『さやまみどり』の萎凋香と品種の濃厚な香味が一体となり、このうえなく個性的な狭山茶に仕上がりました。
このように自己主張の強い狭山茶が当たり前だった、昭和の一時代があったのでしょうね。
狭山茶専門店 備前屋 清水敬一郎