今日は立秋。先月の台風以来過ごしやすい日が続いていたけれど、ここ数日間は盛夏が帰ってきたようです。日中のせみ時雨も迫力を増してきました。
『大山講』にまつわる「灯篭立て」が今年も始まりました。7月の中旬から約20日間、各戸持ち回りで灯篭にお灯明をあげる夏の恒例行事。ここ日高市高萩は江戸時代より日光脇往還 の宿場町として栄え、高萩宿の入り口付近に立てられたと伝わる灯篭。個人の敷地内に移設されていたものが、昨年本来の場所にほど近い小畦川のたもとに戻されました。夏の宵、川端でほのかに揺れ動く灯を見ていると、時間がゆったりと流れているように感じます。
『霞野(かすみの)』用に、「やぶきた」を再製。萎凋香を主体とした煎茶なので、5/15 間野善雄 製を原材料に使用。これは今年度、最も萎凋香に優れていると断言できるはさみ摘みです。この荒茶を産する「マル志」の茶園は入間市茶業公園のそばにあり、広い根通りでも最高品質の茶葉が生産される場所の一つだと思われます。日頃の肥培管理はもちろん、摘採時の天候が最適だった事。そして新芽の成熟度が適切だった事。なにより、茶葉のもつ萎凋香を生かすための製茶が良好だった事。全ての要素が上手くそろった成果だと思われます。
「マル志」の特徴である青みのかった茶葉は「やぶきた」でも健在。適切な蒸し度により 葉切れが少なく、厚い茶葉の ざっくりとした外観は昨今の狭山茶にはとても珍しい存在かもしれません。抽出液には「おり」がほとんどなく、澄んだ黄金色に近い水色。もしかして手摘み? と感じるくらい濃厚で、しかも雑みの全くない味。それだけに萎凋香がまっすぐに喉から鼻に抜けます。何の淀みもてらいもなく、茶葉から発信される萎凋香の情報が直に伝わってきます。
日本茶を代表する品種「やぶきた」。濃厚な味は多くの人に好まれ、火入れに対するしなやかな「応答性」には茶業者が絶対的な信頼を寄せます。ただし香気、特に萎凋香に関する評価はさほど高くないようです。それでもこの「マル志」の茶に触れると、その質の高い味と香りの調和に「やぶきた」の底力を思い知らされます。この萎凋香の香味があるからこそ、他品種の個性が生かされるのではないかとも感じます。
今は火入れから上がったばかり。茶葉を覆っている火香のベールがとれるのを待って、『霞野』を合組む予定です。
狭山茶専門店 備前屋 清水敬一郎