久し振りに京都を訪ねました。学生時代を過した思い出深い土地。早春の京の街はまだ寒く、朝夕は冬さながらです。四条通の北、祇園白川端は最も京都らしさを感じる場所。河畔には桜があり、川沿いに伸びる石畳の道には処々に朱色の灯篭が配されます。反対岸は旅館街・・・ 簾の下げられた町屋、入口に架かる小さな橋・・・ 訪れる者にとって「これこそ京の景色! 」という風情。馴染みの旅館ではその名前どおり、橋の袂に植えられた紅白の梅が来訪者を出迎えます。どちらも枝に数輪の花を残すだけで、あいにく時季を逃したようです。来月上旬には せせらぎに桜が枝垂れ、シャッターチャンスを待つ人々が列をなすことでしょう。散策中 着物姿の小さな女の子連れの女性とすれ違いました。レンタル衣装の着付けで、京都旅行を楽しんでいる母子でしょうか。考えようによっては、これも古都ならでは風景かもしれません。
今回の上洛は煎茶道の家元に案内をいただき、東福寺・萬福寺といった茶に縁の深い寺と先人達の事績を学ぶのが趣旨です。茶の歴史を伝える重要な名刹にもかかわらず、恥ずかしながら、これまで 一度も訪れたことがない。東福寺は聖一国師、萬福寺は売茶翁に縁の深い寺で、萬福寺には煎茶道の本部が置かれているそうです。
萬福寺は『開版』と呼ばれる魚形の板が印象にありました。唐風の雰囲気が支配する古刹は、広大な境内に多くの伽藍が配置されています。今回訪ねたのはその名も『売茶堂』。脇には売茶翁顕彰碑や茶具塚があり、茶に関わる事柄がまつられていました。ここには翁の木像が安置され、その前で家元から煎茶が振舞われます。茶碗は当代三浦竹泉作の染付け! 『黄檗山』名入れの干菓子が添えられます。二十名近い大人数なので、土瓶を使ったお手前です。茶は川根産の煎茶。野木園手摘みの正統派煎茶と思われます。アミノ酸の味が強いので、出品茶クラスなのでしょう。最高級煎茶を土瓶から豪快に注ぎ、遠慮なく四・五杯はいただいたでしょうか。茶も茶器も菓子も場所も極上のシチュエーション。茶業者にとって、至福のひと時。
建仁寺では、幸運にも開山堂が一般公開されていました。ここは茶を招来した栄西禅師ゆかりの寺。開山堂は禅師の廟所であり、日本茶と茶業のいやさかを祈るに相応しい場です。あいにく撮影が禁止されていたものの、他の建物内は写真OKでした。襖絵も枯山水の庭も見応え充分。 また、俵屋宗達の風神雷神図屏風を所有している事も判明。非公開文化財の特別公開と祇園の一角という立地のためか、多くの人でにぎわっていました。
せっかく京都に来たのだからと、足を伸ばして枚方市にある紅茶ショップ“I TeA HOUSE”を訪問。紅茶ダージリンについてレクチャーを受けます。最初に中国種実生のファーストフラッシュが三種類(シーヨック・サングマ・セリンボン)。次にクローナルのファーストフラッシュ三種類(サマビヨン・タルボ・ジュンパナ)が呈茶されました。飲み比べて びっくり! 実生とクローナルとでは こんなにも違うものなのか・・・ 抽出液の香気ではクローナルが良いものの、口に含むと香味に歴然とした差が… 実生の方が断然鮮やかで、自分好み。 そして最後にセカンドフラッシュが三種類。私の質問に応じ、伊藤孝志オーナーから様々な話題が提供されます。各エステートの個性、市場動向、萎凋工程、マスカテルフレーバーetc.。約2 時間、全醗酵茶の持つ硬質で、緊張感のある、研ぎ澄まされた萎凋香を満喫しました。
実はクローナルを飲み終わった頃から頭がボーとして、ふらつくような不思議な気分になり、何やら体調に異変が・・・ オーナーに打ち明けたら「お茶酔い」との事。「岩茶酔い」という言葉を耳にしたことがあるけれども、これがそうなのか。初めての体験でした。
狭山茶専門店 備前屋 清水敬一郎