11月末 霜の季節。店庭のもみじが茶色に姿を変えつつあります。例年にない暖かな秋のためか、鮮やかな色に染まることもなく散り始めました。少々もったいないような気もします。脇にある生垣の茶が今年も花を咲かせました。その中に1本だけ赤い花を持つ木があります。純白の花びらに、部分的にショッキングピンクの染料を滲みこませたような茶花。シベまで同色に染まり、エスニックな雰囲気を漂わせます。ある生産家から贈られたものですが、どのような由来の品種なのか興味津々。これほど艶やかな花を咲かせる樹からは、どれほどエキゾティックな茶が産み出されるのでしょうか。
初冬を迎え、「手火入れ」を実施。今回はイベントで行うことになりました。茶を振舞う所作は結構優雅だとは思うけれども、他の食品に比べ、茶は店頭での動きが少ない商材だと指摘されることがあります。その点「手火入れ」は控えめな動作ながら、連続した動きがあるし、わかりやすい香気もある。所要時間は2時間弱。処理量も一回当り数kg。手揉み茶に比較し、実演販売には現実的で効率の良い手法かもしれません。
今回使用した原料はもちろん「さやまみどり」。相変わらずこの品種は垢抜けない外観ながら、独特な香気を放っています。抽出液を口に含めば、品種固有の濃厚な味。暑い時季には決して飲みたくない、暑苦しいほどに個性的。さらに萎凋香がその特性を助長します。気温が下がり 暖かさがほしくなると、それまで おせっかいに感じていたこの個性が恋しくなります。また「さやまみどり」は数多ある狭山茶の中でも抜群に仕上げ栄えのする品種。火入れに対する圧倒的な許容量と、しなやかな応答能力は他の追随を許しません。特別な方法で火入れを行うには、もってこいの品種です。
焙炉を使う「手火入れ」の特長は茶葉が蒸れないこと。そのため、香味ともにスッキリとした茶に仕上がります。「やぶきた」など通常の品種ではあっさりし過ぎ? とも感じるけれども、「さやまみどり」では全くの別世界を現出。濃度のある味。芳しくも軽やかな香り。不純な部分をそぎ落とし、品種の個性を際立たせる手法・・・まるで「さやまみどり」専用の火入れ方法であると信じたくなるほど。
多様性を誇る茶の品種。国内にも海外由来のものや、民間種など まだ世に出ていない品種が数多く存在している事と思われます。一方で、飲まれる時季を選ぶほどの個性を秘めている日本茶品種があるのも事実。いつもながら「さやまみどり」に携わると、冬の訪れと共に本格的な日本茶シーズンの到来を感じます。
狭山茶専門店 備前屋 清水敬一郎