いよいよ師走。年々遅くなる落ち葉の季節が今年は特に遅れているようです。近所のけやきも枝いっぱいに葉を抱え、装い(?) のまっ最中。それでも店庭では、真紅に染まる前のもみじの葉が散っています。他の枯葉で汚される前の植木場。苔の上に撒かれた もみじの落ち葉。色の対比が見事です。木の上にあったときよりも、輝いているようにさえ感じられます。
木枯しの到来に促され、今年も炭火入れを始めました。早朝の屋外、火消し壷から消し炭を取り出し、備長炭に火を起こす。約15分間の作業が北風の下では苦行のよう。いつもながら炭火入れは工程の前後に手間と時間がかかります。それでも備長炭は一旦着火すれば、長時間安定した燃焼を約束。また燃焼時に無粋な煙や臭いを発生させない優等生。そして無類に強力な火力。備長炭は他に代える事のできない、茶の火入れにとって最高の燃料と断言できるでしょう。
火入機は通称『ガラ』と呼ばれる米澤式火入機。この火入機は茶に直接風を当てない上、むれにくいので、茶の内質を損なうことなく火入れを施す事ができます。使用する原材料は『さやまみどり』。『ガラ』と備長炭の組合せは、この品種の長所を着実に引き出します。
この時季 強力に熱量を発生する機械での火入れは、 なんとも贅沢な作業です。やがて立ち上る品種の香気。時間の経過と共に青臭から芳香へ・・・ 茶温をチェックしながらも優雅な気分に浸るひととき。ついつい火を入れ過ぎてしまう傾向に、同業者の大先輩から助言をいただきました。「炭火は火力が強く、機械から出しても茶温が下がるまで時間がかかり、その間にも火入れが継続していると考えるべき」との事。火入機から下ろした茶を静置し、 常温に戻す『寝だまし』という工程があるそうです。
早速実行。火入れ機での処理時間を短縮し、その倍の時間を『寝だまし』に当ててみました。『ガラ』から取り出した茶をクラフト紙に薄く広げ15分間。撹拌後、さらに15分間。そしてもう一度。
試飲してみると、確かに『さやまみどり』の野暮な味と火当たりしたような苦味がありません。火入れ直後は香気がもの足らなく感じたものの、一週間ほど経過した現在は ”ふわっ” とした 品種の香気が戻ってきました。
毎年同 じ作業を繰り返していても、炭火の持つ新たな価値と特別な力を再確認させられたように思います。
狭山茶専門店 備前屋 清水敬一郎