師走の皆既月食を堪能しました。日食に比べ観測機会の多い天象ながら、ここ数年は天候に恵まれずで、本当に久し振り。皆既帯はほぼ天頂付近という最高の観測条件に加え、快晴・無風と気象状況も上々。まぶしいほどに輝く冬の満月が徐々に欠け始め、やがてにぶい赤色に。光度を落とした月の周辺には、いつの間にか星が輝いています。夜空で最も明るく、絶対的な存在の満月がその形を、明るさを、色彩までも変えしまう皆既月食。21世紀の現在でも見応えのある、美しくも 華やかな天体ショ-。世界的規模の火山噴火がなかった今年、皆既中の月は健全な赤銅色でした。
今夏製茶した「なでしこ美人」は再製・火入れを施され、常温倉庫で休憩中。火入れは熱風の透気乾燥。通常の二倍の時間をかけ、火入れ機周辺には、かなり濃厚な萎凋香があふれていました。あれから5ヶ月、熟成具合はいかがでしょうか。 萎凋香は? 味は? 水色は? ということで、試飲してみました。
久し振りの「なでしこ」は相変わらずカラフルで、にぎやかな外観。萎凋香は上々。寒い時季を迎え、熟成も順調そうです。ところが味はちょっと意外! あれだけしっかり火入れをしたのは、半醗酵茶特有の薬臭いような香味が好きではないから。にもかかわらず、ちょっと生っぽいような・・・ それは味が劣るということではなく、もちろん経時変化に由来するものでもなさそう。ひょとして、まだまだ火入れ不足?
そういえば、昨年台湾での「東方美人」製造研修時、380分間にも及ぶ後乾燥の話を『達人』徐耀良氏から聴きました。そこで台湾で購入してきた火入機の登場。電熱線で茶に直接熱を加える直火型。以前 日本茶で試験したところ、あまり芳しい結果が得られなかったので、日本流に少々手を加えてあります。
早速、火入れを実行。高めの温度で1時間。日本茶とは全く異なる "かおり" が漂い始めます。それは時間と共に厚みを増し、艶のある香気に移り変わります。まだまだいけそう。さらに1時間を追加してから、試飲。
薬臭いような風味は和らぎ、味の濃度が増したようです。日本茶のものとは異なるけれども、一種の「火入れ香」を感じます。どこか "ほっ" とする印象。萎凋香は角がとれて、丸くなった様子。抽出液は皆既中の月のように妖しい赤色に染まることはなく、透明度の高い琥珀色をしています。
これが良いのか悪いのか? もしかして蒸し製を専らとする私達には、味覚に占める「火入れ香」の嗜好が想像以上に強いのかもしれません。日本の緑茶品種から生まれた半醗酵茶「なでしこ美人」、他にもっと彼女にふさわしい火入れ方法があるのではないでしょうか。
狭山茶専門店 備前屋 清水敬一郎