少し前のことですが、店庭に芳香が漂っていました。店の植木に大きな銀木犀があり、今年も白い小さな花を咲かせ、甘い香りを放ちます。木犀の香りを持つとされる、中国の青茶『肉桂』。作家の佐能典代氏は『肉桂』について「花の香りを命とするお茶は、周辺の植物とも関係しあっているのではないだろうか … 人間でさえ、はなやかさと華やかさの境界線上を漂っているような錯覚に包まれるのだから、純粋な茶樹はいたって自然に、素直にキンモクセイの花と響き合っているに違いない。」(『中国名茶館』より抜粋)と著しています。なんて芳しい表現なのでしょうか。それにしても、木犀に通ずる萎凋香を生み出すとは、どのような茶樹なのでしょうか。興味津々です。
秋は品評会の季節、第41回関東ブロック茶の共進会の入札会が昨年に引き続き、二年連続で埼玉県で開催。今年も埼玉県茶業青年団の品評会 FGTC-サヤマ2013も同時に催されました。出品点数は『関ブロ』で200点、『FGTC』で91点。近郊で開催される今年度最後の入札会のため、大勢の茶業者・関係者で賑わいました。
普通煎茶の荒茶と仕上茶を主体に入札。今回の入札会では 出品茶をチェックしていて、目に(鼻に?)留まる茶が少なかったようです。残念ながら、存在を誇示するように香気あふれる出品茶にめぐり逢うことができませんでした。五月初旬の低温の影響でしょうか。それでも両品評会合わせて、合計10点を落札できました。その中で、今年も入間市上藤沢の清水裕司氏の出品材を落札。荒茶普通煎茶部門16席銅賞受賞茶。入札会のなかった一昨年を除き、6年連続で彼の出品茶と縁がつながった事になります。
入荷した出品茶。封印を解き、内容を確認。いつもながら内袋を開封し、対面するときは興奮を伴うものです。第一印象はどっしりとして、しっかりした形状。そして茶葉の色沢も美しい。早速試飲。内質チェックのため、高めの湯温で淹れます。蒸しの通ったしっかりした水色。口に含んだ瞬間感じたのは、濃厚なうま味。抽出液がのどを通過すると、アミノ酸の波が押し寄せ、口いっぱいに広がります。さらに嬉しいのはその香気。口中に うまみ成分を感じながら、のどから鼻には芳香が駈け抜けます。鮮度のある繊細な香気、これは新鮮香でしょうか。入札時には見落としていたようで、うれしい誤算です。
今年も、水色・味・香気と三拍子そろった器量良しの品評会入賞茶を迎えることができました。