師走となりましたが、強い季節風もなく穏やかな毎日。店舗近くの河川敷に咲く十月桜が盛りを迎えました。冬の陽射しを浴び、ソメイヨシノより淡い薄紅色の花が枯葉と同じ枝に咲き誇っています。晩秋から初冬への移ろいを感じる風景です。
一つの枝に満開の花と枯葉が…
俳画掛紙も交換の時季を迎えました。画題は枯れ枝に鳥、句は「鶲(ひたき)来る 光のように 灯農(の)ように」で、画も句も来子耿太(くるすこうた)先生の作品。「じょうびたき」というシベリア方面から飛来し、日本で越冬する渡り鳥が主役です。腹部の羽毛がオレンジ色に輝き、まるで明かりを灯したように見られるため「ひたき」と名づけられた由。葉をすっかり落とした枝にどこからともなく鶲が飛んできて、そこだけ灯が点ったように華やいだ景色を詠んだのでしょう。物思いに耽っているような、安堵した姿にも思えます。ひょっとして北からの旅を終え、武蔵野へたどり着いたばかりだったのかもしれません。
掛紙「ひたき」 〜鶲(ひたき)来る 光のように 灯農(の)ように〜
店庭の植木にも時々遊びに来ますが、お腹の毛が温かみを感じさせる珍しい鳥です。この辺りでは「へっかた」という俗称でも呼ばれており、さえずるときに尾を上下に振る様子を「へっ かたかたかた…」と表現したのがその由来だとか。それだけ馴染みのある鳥なのでしょう。
この掛紙の使用期間は年内の約一ヶ月間。他の掛紙に比べて使用するのが短期間にもかかわらず、ちょうど御歳暮の時期にあたるため使用頻度が高く、とても思い入れが深い掛紙です。北の大地から飛来した鶲が狭山茶の使者として日本各地へ飛立っていく…そんな印象を持っています。
この掛紙「ひたき」を私達は愛情をこめて『へっかた』とも呼んでいます。
狭山茶専門店 備前屋 清水敬一郎