春分の日、彼岸のお中日を迎えました。今日は久し振りの雨、良いお湿りです。今月は季節風の冷たい寒い日が続きましたが、彼岸の入りと共におだやかな日が訪れるようになりました。店庭では紅梅に代わり、しだれ梅が一気にほころび、たおやかな枝には淡いピンク色の花が連なって咲いています。花の重みで枝が弧を描いているのではないかと思われるほど。花の色も花のつき具合も紅梅に比べおおらかな雰囲気をただよわせ、青空を背に伸び伸びと咲いている姿を見ていると、春を感ぜずにはおれません。
彼岸を過ぎると狭山の茶園も新茶の準備です。耐寒色に染まった茶葉を刈り落し、春整枝が始まります。新茶まで残り一ヶ月半。再製作業もラストスパートの時季です。今年度最後の「咲玉(さきたま)」を仕上げました。
「咲玉」は県名の由来となった「さきたま」の名を冠した煎茶。この名称は狭山茶を育む武蔵野の風情を伝えるべく 埼⇒咲と字を換え命名し、商標登録を受けたもの。原材料は茶葉が緑に色を返すかどうかという若芽を製茶した、根通り物の「やぶきた」が主体となります。今回は5/14 島田貴庸製、5/15 増岡伸一製、5/17 間野皓介製、5/17 大野利昭製 の「やぶきた」と5/15 市川喜代治製「さやまかおり」を使用。黒い軸が目立つだけでなく、葉の部分もしっかりと育っており、細すぎず均整の取れた外観。再製で「火入れ香」一色に塗りつぶすのではなく、全体的にはふんわりと、一部分のみしっかりと火入れを施し、若芽の味が余韻として残るように仕上げます。水色は濃度のある、やや黄ばんだ緑色。個人的には味覚と視覚のバランスのとれた、狭山茶らしい色だと思います。
このグレードは茶店の『顔』。大げさに言えば、これを飲めば店主の好みから茶に対する主義主張まで解ってしまう、『カギ』となる商品でもあります。「咲玉」は備前屋の定番中の定番ともいえる大切な煎茶。今回の仕上はどのような評価をいただけるでしょうか。