季節はまだ完全に初夏に切り替わっていないのでしょうか。にわか雨や雷雨に見舞われながらも、手摘みは順調に進行中。本店の庭にはゴザが広げられ、茶畑から運ばれてくる茶葉であふれています。連日20℃を越す気温と強い陽射しのもと、茶葉からは甘美な香気が流れ出します。摘採された茶葉は天日にさらされると茶温が上昇。それに伴い、茶葉の中で萎凋のスイッチがONに切り替わるのでしょうか。それは日陰に移動しても持続し、乾燥した風に乗り 漂います。「薫風」という言葉はこの季節、茶が萎凋する状況を表現しているのではないかと勘ぐりたくなる、それほどの芳香です。
白髭野木園手摘み茶ができ上がりました。宮岡豊君が製茶を担当。蒸し度をかなり上げてもらったので、荒茶の状態では、肌は少々荒れ気味。けれども、とても素敵な香気を帯びています。品評会出品茶用の小型機を用いた ていねいな作業のためか、茶葉はのびやかで、白い棒が極端に少なく、茶葉は黒め。摘採期が早すぎたのでしょう。それにしても、とにかく細い!
早速、再製に取りかかります。
いつもながら、最初の仕上げは期待と不安が入り混じるもの。荒茶を観て ある程度想像はつくものの、最終的に仕上げて初めて気がつく部分もあります。茎の状態だとか、歩留まりだとかetc. そして気になるのが、火入れの加減。年によって入り易い時と、そうでない作柄の場合があるので、最初の火入れは物差しの役割を担います。今年は降水量があったので、火が入り易い作柄と予想。若干弱めの火入れを施したところ、的をはずしてはいなかったようです。
茶殻には黒い、あるいは赤い萎凋葉が目立ちます。水色はやや黒目。若過ぎるほどの茶葉に、あれだけ萎凋を効かせれば無理ないかもしれません。それより、なにより香気がすばらしい。従来とは一線を画する、と表現したくなるほどの萎凋香が薫ります。「やぶきた」にもかかわらず、フルーティーを通り越し、まるで人工的につくり出した コロンかパフュームのような “かおり”。蒸し製緑茶なのに これほどの萎凋香、手摘みした若すぎる位の新芽と天日萎凋の賜物です。
大げさにいえば、鼻の奥で香水容器の封を切ったような・・・。萎凋香を通り越し、葉傷み臭の半歩手前。「葉いたみ香」とでも表現したくなる、おしゃれな香気です。
狭山茶専門店 備前屋 清水敬一郎