おだやかな師走から一転、冬将軍がやって来ました。十二月には めずらしい二日間連続の降雨が、潤沢なお湿りを茶園にもたらしました。そして、間違いなく 北国に雪を降らせたであろう冷たい季節風が吹き抜け、電線を鳴かせます。早朝の外気温は連日氷点下に。いよいよ本格的な霜の季節が到来です。先週末の霜はこの時季には稀なほどの大霜でした。お隣のコロニアルの屋根も、屋外の自動車も凍てつき、刈り跡の残る田は一面の霜柱に覆われています。整枝の完了した茶園は朝日を受け、茶葉は霜の結晶で縁取られ、白く輝いていました。
年末、上級茶の季節でもあります。熟成の進んだ野木園の手摘み茶。新茶期の新鮮な風味に比較すると味に奥行きが加わり、なにより萎凋香の切れ味が冴えます。「ひやおろし」という日本酒は、ひと夏を越えると丁度良い熟成感が得られる事に由来する季節商品だそうです。無色透明だったのが、かすかに山吹色がかった液体に色を変え、味は尖った部分が丸みを帯び、重厚さを加えたように感じる酒。日本茶も日本酒もそれぞれ新茶・新酒の表現があるように鮮度が重視されるけれども、四季の中で変化が楽しめる食材なのかもしれません。
お年賀用に、島田貴庸製の野木園手摘み『ふくみどり』を仕上げます。野木園は手摘みの直後 極端に樹高を下げる以外、一切整枝を行わない茶園。茶樹は望むままに成長し、大きく・太く・厚みのある新芽は耐寒性にも優れ、今春の低温にもめげず 高品質な荒茶が生産されました。彼の製茶機械は60kg粗揉の中型機ゆえ、軸と本茶分が紺一色に染まり、かつ真っ直ぐに伸びた出品茶のように繊細な外観とは無縁。それでも きちんと蒸しの通った濃度ある水色は好感が持て、何より天日に干された茶葉の萎凋香が素晴らしい。
若水を沸かした、新年最初の一服にふさわしい水色になるよう、細粉を選別。萎凋香が本領を発揮できるよう、低めの温度と長めの時間で火入れを施す。『やぶきた』に比べ、優しい味と判りやすい萎凋香は通常の上級茶より高めの湯温、例えば70〜80℃位で淹れてもバランスが良いかもしれません。
萎凋香に優れた狭山茶は、今 第二回目の旬を迎えているのではないかとすら感じます。