三年連続で訪れた台湾。桃園空港に到着した夜は曇天ながら、その日の製造はありませんでした。日中の天気が芳しくなかったのでしょうか? 昨年に続き、天候に恵まれない春茶です。四月中旬なのに、まだ二日間しか製茶の機会がないのだとか。日光萎凋が前提の半醗酵茶づくりには陽光が不可欠。わかってはいるものの、スコールのように激しい雨が屋根を叩くたび、張り詰めていた気持と期待がしぼみます。頭の中で Chicago の名曲 がリフレイン。“Another Rainy Day in New York City” ・・・ 感傷的な歌詞を軽快でリズミカルな曲調で包み、しっとりと歌い上げる 私の大好きな曲・・・ でも台湾の春茶に雨はふさわしくない! !
所在のない朝、製茶廠近くの茶園を見に行く。道端にはハイビスカス(?) が無造作に花をつけ、鮮やかな色彩をふりまいています。青心ターパンは東方美人の名手でもある、林文経先生の大好きな品種。相変わらず深緑色の濃い茶葉は雨にぬれていました。
四度目の来台ということもあり、台湾の茶園をゆっくりと観察する余裕が出てきたようです。日本品種との茶葉形状・樹姿・色の違いetc. に目が向きます。開張型の樹姿には異国情緒すら感じます。一番の違いは新芽の色。黄色味が強い日本品種に対し、親葉とほとんど変わらないほどに濃い色は 摘採時、正直どこに刃を入れるべきか悩んでしまうほど。
例によって、お茶での歓迎を受けます。4月6日製造の手摘み緑茶『金萱』。いささか『琥白』と似た印象の外観。でも一層白毛が目立ち、茶葉は黒に近い。包種茶よりも艶やかで気品を感じさせ、シックな雰囲気をただよわせます。烏龍茶よりも水色は淡く、香味は淡白ながら、口中に残る香りは涼しげで、蜜のように甘い・・・ 愛らしい釜炒り製緑茶。「半醗酵茶と緑茶の違いは?」「萎凋のやり方は?」「揺青は?」・・・ 次々と質問をぶつけます。一番興味のあったのは「なぜ最初に緑茶をつくるのか?」という疑問。一番の理由は顧客からの強い要望があり、手摘みをしてでも製茶する意義があるのだとか。芯の出開きが許される烏龍茶と違い、緑茶は春茶早々の時期を選ぶ必要があるとの事。納得です。
一日、茶芸館を訪れました。台北車站近い、市の中心街一等地の店。夕刻近い午後の時間帯もあり、店内は静かな雰囲気で、現代的なしつらえの店。高山茶、フレーバーティー、健康茶の3種類があり、セットの菓子を選べるメニューでした。茶の種類が少ないのが残念。でも評判どおり、職人手造りをうたう菓子は絶品でした。
昨年二泊三日が全て雨だったのを反省し、今回は四泊五日のスケジュール。にもかかわらず、雨が降らなかったのは最終日だけ。皮肉にも、帰国日の朝は青空が広がり、気持ちよさそうに白い雲が流れて行きます。以前 World Tea East で知り合ったイギリス人茶商から、アジア茶産地での ”the climate change” の実態について質問を受けたことがありました。二年連続の天候不良は異常気象ではなく、まさしく気候変動なのでしょうか。
「でも頑張れば、あと一週間で終わるから大丈夫」こちらの心配をよそに、林和春君からは楽観的な答えが返ってきました。一番茶に全力を注ぐ日本茶業界に対し、年5~6 回茶期を迎える台湾茶がまぶしく感じられました。
狭山茶専門店 備前屋 清水敬一郎