帰国前日、二年越しの念願がかないました。昨年台湾に初上陸していた落合式乗用型摘採機が稼動します。ここは長生製茶廠で最も面積のある、台茶13号『翠玉』と『四季春』の茶園。前夜の雨が乾いた正午過ぎ、はさみの調整を含め、ほんの十数分で『四季春』の摘採が終了。早速、製茶廠で日光萎凋が始まります。気温と湿度は充分ながら、完全な曇天なので、数時間を費やすものと思われます。初めて体験する品種なので、どんな香気が発揚するのかとても楽しみ。昼食後は台茶17号『白鷺』の予定でした・・・ ところが無情にも雨が・・・ 急遽 茶葉を屋内に移し、屋内萎凋に切り替わります。
萎凋と揺青の担当は林文経先生の奥様。熊手を使っての撹拌が始まりました。何の変哲もない熊手が動くたび、茶葉が踊るように舞い始めます。実際やってみると、前後左右に動かすことはできるけれど、茶葉を三次元で操るのは意外に難しい。彼女の作業を観ていると、茶葉が自らの意思で飛び回っているかのようです。日光萎凋を補うため、この日の揺青はインターバルを長めに取りながら5 回行いました。その間、各工程前後での香気の移り変わりと葉脈に残る水分量の変化を文経先生から、つきっ切りで伝授いただきます。揺青機による最終撹拌が終了したのは夜半過ぎでした。
静置を経て、殺青に取りかかったのは午前4 時すぎ。ここでは殺青機の温度設定とチェック方法を、さらには取出し時の茶葉の感触を教授されます。2 年振りに触れる殺青終了時の「つるつる」「すべすべ」の生茶葉の感触・・・ なつかしい・・・ 日本の緑茶用品種とは全く異なる肌触り。
当初10分だった殺青時間を12分間に変更。それに伴い、素晴らしく甘い香気がただよい始めます。今年は殺青機も揉捻機も新型機が導入されており、全てタイマーつきの時間制御で、殺青・揉捻が施された生茶葉は乾燥機へ飲み込まれて行く。一時乾燥・二次乾燥が済んだら、始めて見る団揉工程へ。「茶葉を布で包む → 団揉機 → 殺青機(玉解き)→ 乾燥機」この一連の工程を 5回以上繰り返し、除茎機で軸の部分を切断・仕分を行えば、見慣れた半球状の烏龍茶が完成。時刻は翌日の午後、帰国が目前に迫っていました。
『四季春』は普及品というイメージが先行していたけれど、角のとれた香気で甘みとコクを感じます。今から思えば、曇天下での半端な摘採量といい、食事そっちのけでの仕上げ作業といい、2 年連続で雨にたたられた台湾茶研修に対する手土産だったのかもしれません。先生夫妻の愛情を感じる『四季春』です。
狭山茶専門店 備前屋 清水敬一郎