立春を過ぎたと思ったら、一週間で二度の降雪。先週末は久し振りの大雪でした。二十年振りの積雪だとか。店庭では25cmほど積もりました。ここ数年 年明けには必ず降っているけれど、雪かきが必要なのは久し振り。街中の主要道路も、郊外の田畑も 雑木林も見る間に雪でおおわれ 白一色に染められていきます。週末のためか 交通量は少なめ。人通りもほとんどなく、静かな景色が広がっています。雪が音を吸収するというのは本当ですね。夜になっても勢いは衰えず、店前にある橋の門柱に設置した茶壷型の照明にも降り積もります。雪が灯りに映え、まぶしいくらい。結局 翌未明まで丸一日降り続きました。畝間にも積もり、真っ白な茶園。それでも日当りの良好なところでは溶け始めてきました。乾きから開放されて、茶葉が一息ついているように感じられます。
昨秋行われた埼玉県茶業青年団主催の品評会F.G.T.C.-Sayama で落札した気になる一品。それは、自らも審査員を務めた審査会で興味をひいた出品財でした。興味の対象はその香気。おそらくは萎凋香の“かおり”。そして、明らかな品種の“かおり”。それは『さやまかおり』でもなく、もちろん『ふくみどり』でもない。審査結果で明らかになったその荒茶は『ごこう』でした。
『ごこう』は備前屋の先代がその香気を「貴婦人の香り」と称して惚れ込み、宇治より苗木を取り寄せ、狭山に広めた品種。今回の入札会では、他の入札者の目(鼻?)には留まらなかったようで、幸い手に入れることができました。入手後そのまま保管しておいたものを改めて試飲してみます。相変わらずの判りやすい香気。ただし味が強い。渋いのではなく きつい。良くも悪しくも、品種の個性が充分に発揮されているように感じます。量目は10kgしかないので、単品で仕上げることにしました。
F.G.T.C.-Sayama は深蒸し製法習得を目的に始まった品評会。評価の基準に「蒸しの良い…」が付加されます。その影響でしょうか、この出品財は茶葉が細かく 伸びやかさに欠けた外観。『ごこう』特有の青味のかった、繊細な風情の茶葉とはかけ離れた印象。蒸し度も揉み具合も過度な製法による作品かと思われます。もともと個性の強い品種が香気にのみ萎凋香が反映して、香味の均整がとれていないようです。そこで透気乾燥機にてタップリと火入れを実施。萎凋香の香気と調和するまで、高めの温度で長時間。若干火入れ香が感じられるものの、とがった味がやわらぎました。ただし、水色はかなり悪化した様子。
碾茶品種である『ごこう』に深蒸し製法は似合わないように思います。それでも萎凋香に対する潜在能力が確認できたのは 大いなる収穫。「貴婦人の香り」の再現に向け、次の新茶期で試みるべき課題がみえて来ました。