十一月中旬、文字通り つるべ落としの夕暮れ。西空低く金星がまたたき、満天の夜空と夜半の冷え込みを予感させます。朝の気温は五度。秋が深まったというより、急速に冬が近づいているようです。昨年は暖かな日々の後、突然真冬に切り替わったのを思い出します。今年も このまま冬に突入するのでしょうか。今春新植したばかりの『ゆめわかば』。この新たな品種の萎凋香能力にほれ込み、白髭茶園の一部を『やぶきた』から更新。今夏の酷暑と少雨を耐え抜き、見事に活着してくれました。樹勢良好。根元に藁を敷き、冬の訪れに備えます。
立冬を過ぎ、炭火入れを開始。ずっと国内産備長炭を購入していた川越市中の燃料屋さんが店仕舞いしたので、ネットで検索。このような商材もウェブショッピングの時代です。便利だけど、少々複雑な気分。決して安価ではないし。それでも品質は良好。火の持続力、温度の維持性能は問題なく、燃焼時の香気も上々。
使用する原材料は先日仕上げたばかりの『さやまみどり』。炭火入れに使用する米澤式火入れ機 通称『ガラ』は回転するブラシが茶葉の表面をこすりつけるため、茶葉がくずれやすい。そこで、大きく成長した下葉の部分『あたま』を選別せず、そのまま本茶分に残しました。そのため、全く手を加えていないかのような外観には、深蒸し煎茶愛好家に限らず 違和感を覚える方がいるかもしれません。ただし、『あたま』の部分にも紺が乗り、茶葉は色沢良好。大柄ではあるけれども、安っぽくはない。この品種の特長でもあります。
ガスバーナーを利用し、消し炭に火を起こす。火入れ機の火袋に設置し、新しい炭を補給。温度を確認。茶葉を投入。茶温の上昇に伴い、再製工場内にただよう芳香。それは安定燃焼時に備長炭が発する甘い匂い。そして茶葉から揮発する厚みのある華やかな香気。萎凋した『さやまみどり』では さらに印象的で、嗅覚が鋭敏に尖っていくのを感じます。今回の炭火入れは30分から45分間で終了。せっかくの水色と萎凋香を損なわないよう、控えめに。その代わり『寝だまし』と呼ばれる静置の工程に時間をかけます。合計 三ほいろ分の火入れを行いました。
仕上がりは野趣にあふれ、野暮な外観。やや黄ばみを加えながらも濃度を増した水色。そして … いままで体験したことのない、すっきりと清らかながら濃厚な味。何の障りもなく、のどに滑らかにすべっていく萎凋香の味。今季『炭火入れ狭山茶』の主役登場です。