落合式茶刈り機の音が響き、その背景には椰子の木が揺れ、畝の脇にはグァバが実をつけている。摘採されているのは『青心ターパン』。憧れの烏龍茶『東方美人』で有名なその品種は最晩生なのだとか。四月中旬、亜熱帯気候の台湾 桃園県では春茶の最終盤を迎えていました。『東方美人』の研修以来、4年ぶりの台湾です。春茶が初めてなら、機械刈りを見るのも初めて。微醗酵茶『琥白』を通じて知り合った台湾茶喫茶室のオーナーに誘われ、茶の研修=製茶の手伝いにやって来ました。前回の研修を基に、釜炒り製法への取組上 浮かんできた数多の疑問。その回答を得るため、もう一度台湾で勉強したい。できれば春芽で。しかも酸化醗酵度の低い緑色の茶で。さらには包揉や団揉を行わない形状の茶で。今回の台湾行はそんな欲望を満たすには最高の機会です。3泊4日 短期間のスケジュールながら、3回の製茶を体験。しかも天候に恵まれ、曇天・低温と好天・高温、両方のケースで学習することができました。
桃園県亀山にある『長生製茶廠』。林文経・和春親子は『東方美人』コンテストでの常連だそうで、作業場には「特等奨」「頭等奨」の大きな額が所狭しと飾られています。初日は曇天。日本からの服装でも、さほど違和感のない気温。屋外には摘採された茶葉が布に広げられ、日差しの無い中、長時間の日光萎凋の真っ最中。やがて屋内に移され攪拌、静置。夕方 揺青機が登場し、500kgの茶葉を順次攪拌。終了次第 茄歴へ移され、静置。午後11時より製茶作業開始。2台の殺青機と2台の揉捻機、そして自動乾燥機がよどみなく生葉を茶に変えて行く。午前4時 作業終了。
二日目・三日目は夏の日差し。そして半袖が恋しい気温。午前10時頃より摘採作業。10分間の日光萎凋。後は初日と同様。ただし同じ品種ながら、畑も芽筋も違い、全ての機械で処理時間が長くなっていきます。そして一番の違いは香気。特に揺青機から取り出した時と静置時の香気。そして翌朝の作業場に漂う香気。
作業の合間、お茶が振舞われます。半球状の烏龍茶・東方美人・蜜香紅茶・釜炒り製緑茶。そして『青心ターパン』『金萱』『翠玉』『四季春』『白鷺』といった品種達。それぞれの特徴を聴きながら、浴びるほどに ご馳走になります。お二人とも日本語が達者。特に息子の和春君は小中学校時代を日本で過ごしたそうで、流暢そのもの。少々込み入った内容でも、完璧な回答が返ってきました。萎凋の良し悪し、揺青の意義、静置時間の判断、殺青での茶葉の感触、揉捻のメカニズム、乾燥の目的etc.。それらは自らが考えていた製茶の概念とは およそ異なる部分が多い。それは製法の違いだけではなく、茶に求めるものが違うからだとも感じます。茶葉に秘められた香気を引き出すためには手間も時間も惜しまない、台湾茶業者の知恵に脱帽です。
多くの疑問に答えを得て、活力に満ち、有意義な4日間でした。同時に、多くの宿題を課せられたようにも感じた今回の台湾行。それだけに、日本での新茶が楽しみです。
狭山茶専門店 備前屋 清水敬一郎