「霜三日」という表現が狭山茶業界にはあります。この時季、降霜に注意をしなければならない寒い日が三日間続くという事。四月はその言葉通りの気候が巡ってきて、第二週と第四週が冷え込みました。防霜ファンが威力を発揮してくれたのでしょうか。幸いにして被害の情報は聞こえてきません。白髭野木園は防霜ファンが設置できない茶園ながら、野木園である事と東側と東南側に雑木林がある事により、霜害から逃れられたようです。広葉樹の枝が大きく茶園に張り出しており、冬の寒気からも夏の強烈な日差しからも繊細な「やぶきた」を護ってくれています。木立からはうぐいすの声が響き、木漏れ日がまぶしく感じられます。そして、いよいよ季節到来です。
連休目前、白髭野木園の手摘みが始まりました。午前6時 茶樹の露払いをしていたら、早くも近所の摘み娘さんが登場。やがて いつもの顔ぶれがそろい、平成25年度の初摘みが四月中にスタートです。今年の新芽は茶葉のツヤが素晴らしく、そして茶葉節間が長く、結構な外観。豊富なお湿りの影響でしょうか。昨年の初日は5月5日。今年は八日間も早い始まりです。芽の生長は昨年より順調なようで、午前中だけで34kgが手摘みされました。
当日の天候は晴れ。気温はまずまず。摘採された茶葉は本店の庭に広げられ、萎凋開始。日差しが強いので、天日干しの時間は短めに設定。ところが 日が高くなるに従い、風が強くなり始めました。気温も低下。通常屋外で風に当てながら行う後半の萎凋工程は工場内に移動して実施。夕方まで屋内萎凋を施してから茶工場へ。生葉置き場で広げていると、茶工場の若い衆に「去年より萎凋が弱くありません?」と指摘されました。内心
ドキッ! 風が強かったからなぁ・・・。 蒸し度合いは昨年より強めにするよう依頼。うちの手摘み茶は香気でも、味でも萎凋香に頑張ってもらわなければならないのだから・・・。
翌早朝、荒茶に加工されて帰ってきました。毎度の事ながら、初物との対面は緊張感を伴うもの。袋を開封する指先がもどかしく感じてしまいます。一瞬 外観をチェックしてから見本盆に載せる。手のひらで茶葉の感触を楽しみつつ、鼻を近づけ萎凋香を確認する。事前の予想通り
黒く染まった軸が長く、大柄で伸びやかな外観。蒸し度が良好だったのでしょう、やわらかな肌触りです。
早速試飲。湯を宝品に注ぐと、即座に立ち上る萎凋香。抽出液を拝見茶碗に注ぐ。濃度のある山吹色の液体からは馥郁たる香気が放たれています。瞳を閉じながら、口に含む。萎凋香がいっぱいに広がります。飲み込むと、尖ったところが全くない
なめらかな味が何の抵抗も無く通過。やがて 喉の底から香気が駆け上がってきて、口中に幸福な余韻がいつまでも響きます。
今年の新茶はうまい! 少なくとも手摘み茶は。幸先良し。