台風の通過と共に、本格的な秋が訪れました。この時期、大々的に取り上げられる巾着田の曼珠沙華が今、最盛期を迎えています。昨年は開花が10月にずれ込み、残暑の厳しさを思い知らされたけれども、今年は「彼岸花」の面目を躍如。巾着田はここ十日間ほど、多くの人で賑わっています。単位面積あたりの花を数えたところ、全体で五百万本!! との事。花の数はさて置いても、雑木林一面に咲く曼珠沙華は、確かに一見の価値があります。強い秋の日差しに照らし出され、あるいは木立により陰影を添えられた赤い花々は見応え充分。今秋ここ巾着田で、 一体 何万回のシャッター音が響いたのでしょうか。
七月に入荷した、増岡伸一製紅茶の再製にとりかかりました。本来であれば もう少々待ちたいところながら、前年度製は使い切ってしまい、在庫ゼロ。記録によれば、昨年の原材料を仕上げ始めたのは11月から。10ヶ月間で100kgの荒茶を消費した事になります。狭山茶専門店での実績としては、悪くない数字と思います。現在の日本茶業界での「地紅茶・和紅茶」の潮流は、着実に速度を増しているように思われます。
今回はティーバッグ用の再製。もちろんBOPタイプの茶葉ではないので、抽出時の状況を考慮し、外観を細か目に仕上げます。今年度産は 少々緑色がかっている茶葉が目立ちます。醗酵度合いの関係でしょうか。
その代わりという訳ではないけれども、長時間の火入れを実施。もちろん煎茶のように、火入れ香をつけるものではなく、あくまでも香味を整えるのが目的。試飲を重ねながら、時間を調整というより、延長して行きます。最終的には、前年度産の二倍の時間を費やしていました。
全茶連顧問 時田鉦平著『茶商の読んだ茶経評釋』によると、陸羽の古より茶の「再乾」、つまり「火入れ」が行なわれていたそうです。『育』という道具の説明に「茶の湿気を除き、永く貯蔵に堪えしむ為の設備 … 保育器という意なり」とあり、現在の乾燥器に当る道具だそうです。1,200年以上も前から、重要な工程として認識されていた火入れ。紅茶とても、その効能に変わりはないはず。
火入れ後は、明らかに水色の濃度が上がり、尖った部分が丸くなり、香味のバランスが整ったように感じます。茶葉の状態に合わせて火入れを行える、これも「地紅茶・和紅茶」の良さの一つでしょうか。