台風に翻弄された今年の秋、十月の平均気温は観測史上最高だったとか。十一月を迎え、朝の気温は十度代に低下。水霜の降りる日も訪れるようになりました。収穫の季節、今秋は果物も豊作だそうな。白髭茶園の脇にある雑木林でも、どんぐりが落ちる音を頻繁に耳にします。畝間にも多くの実が目に付き、明らかにその数は例年以上に思われます。茶畑ではどんぐりが芽吹くこともないし、春先に咲く楢の花もどちらかといえば迷惑な代物。けれども早春から新茶期にかけては霜害から新芽を守り、強烈な日差しから茶葉を衛り、高品質な萎凋香手摘み茶の生産に貢献してくれている、ありがたい存在です。
寒さを感じると 気になる品種『さやまみどり』。太田義十著『狭山茶五十年史』萎凋香の項目に次のような文章があります。「昭和58年春、お茶の水女子大学香り研究の大家 山西教授が『さやまみどり』のあの芳香は忘れられない、今ではできませんかと問いかけられた」。昭和28年に農林登録された『さやまみどり』はその萎凋性能が評価された個性派品種。戦後一時期の狭山茶業界を支え、狭山茶産地に萎凋香を広めた功労者でもあります。それにしても、すでに昭和五十年代には
今年度は3箇所の茶工場よりこの 希もの品種が入荷。全て『根通りもの』ながら、特に5月21日市川喜代治製は萎凋香充分の貴重品。彼の父君である市川敏治氏は前述 太田義十先生の愛弟子であるゆえ、栽培も萎凋も直伝の正統派技術に裏打ちされた 高品質な『さやまみどり』です。
今、『口切り』の時季、頃合はよし。再製に取りかかります。一番の使用目的は「炭火入れ」。『さやまみどり』の再製特性の一つに、火入れに対する驚くべき応答性の高さがあります。火入れが強いほど味の濃度が増すその個性は、現代の日本茶には貴重です。今季の荒茶を観ると、細かい部分が多く『頭』の部分が平たい形状。例年に比べ葉肉が薄かったのでしょうか。蒸し度が高かったようです。その代わり この品種にはめずらしく、水色が良好。そこで「炭火入れ」以外にも『白萩』にも使用してみることにし、二通りの仕上を実施。
少し時間をおいてから、本火を入れる予定。従来の火入れとは違うやり方を検討中です。