11月度.png11月も半ばになると朝夕の冷え込みも厳しくなり、柿の実もいちょうの葉も色を増してきました。炭火入れを行うのに相応しい時季。早速「おくむさし」の火入れに取りかかりました。

 

使用するのは通称「ガラ」と呼ばれる米澤式火入機。上部が開いた円筒形の金属胴を下から熱し、2本のブラシで茶を撹拌しながら火入れを行います。「ガラ」は機械の作業音に由来するのでしょうが、そんな愛称で呼ばれるほど狭山で愛された火入機です。私が使用しているのは(おそらく)昭和30年代に製作された機種で、後に炭火専用に改造したもの。「ガラ」火入れの特徴は熱した鉄板で茶葉の表面に直接加熱する事。胴内で茶が撹拌されるため加熱した空気が茶葉を乾燥させ炭火入工程.jpgる事。つまり二通りの火入れを同時に行えるのが利点です。さらにブラシが茶葉の表面に細かい傷をつける事で、他の機種では実現できない次元の高い火入れを施すことができる…(以上あくまで一個人の感想ですが)。未だに「ガラ」のファンが多いのも理解できるというものです。

稼働中の「ガラ」 アームの先に装着したブラシが茶を撹拌する
 



炭は着火・消火・温度調整に手間がかかり使い勝手に劣るもののずば抜けた火力を誇り、LPGのように水分を発生させることもない性質の良い燃料です。特に不純物を含まない備長炭は燃焼時に臭いがなく、火持ち良好で茶の長時間火入れには最適。さらに「ガラ」と備長炭は相性が抜群です。茶温が100度以上に達するため常に茶葉の状況を確認しながら、付きっきりの作業となります。炭の遠赤外線効果のためか茶葉に含まれる香気成分の揮発が素晴らしく、火入機を覗き込むと「おくむさし」の強炭火入工程2.jpg烈な香りで鼻の奥が痛いほど。炭火の香りと相まって作業場は芳香に包まれ、期待感が否応なしに高まる作業でもあります。
 

火入れ最中「ガラ」の火袋と備長炭 


火入れが済んだ茶葉はブラシで擦られ白ずれを起こし、水色は鮮やかな緑色ではなく黄色系に変化。口に炭火水色比較.jpg含むと角の取れた味が喉に滑り落ち、品種の素直な香りに満たされ口中が和み、何とも温かみを感じます。まるで個性的な品種の特長を上手に取り出したかのような仕上りです。                 

水色の比較 左炭火済み 右炭火前

                おくむさし炭火済.jpg   おくむさし炭火前.jpg






 外観の比較 左炭火済み 白ずれをおこし茶葉のつやがない 右炭火前 


「炭火入れ」は単に火入れ香を加えるのではなく、荒茶に含まれている余分なものを削ぎ落とし、品種の特性を徹底的に磨く火入れ方法 … 一口で言えばそんな印象です。「おくむさし」のように個性に満ちた品種には最適な火入れ方法の一つだと確信します。 

                                       狭山茶専門店 備前屋 清水敬一郎