十一月下旬 秋が順調に深まり、いつの間にか 晩秋の時季。あわただしい毎日を過ごすうち、紅葉の季節を迎えています。昨年は秩父御岳神社の『紅葉まつり』を楽しんだけれど、イベント続きの今秋は機会を逸してしまいました。白髭野木園の脇に広がる雑木林は結構な広がりがある平地林。この季節、背の高い木々に交じって「もみじ」が目に映ります。林の縁に沿って点在しているので、植樹されたものなのでしょう。緑、黄、橙、赤…様々な色が陽に映え、これはこれで見応えがある。白か銀色があれば さながら『東方美人』…などと思いながら眺めていると、枯葉が舞っているのに気付きました。風の音に促されたかのように樹を離れ、一呼吸おいてから空中を滑り着地。そのとき、かすかな 乾いた音をたてる。風と共に、静かに秋が流れます。
年末を前にしたこの季節、ていねいに肥培管理された狭山茶は熟成がすすみ、新茶期よりも香味が向上すると言われます。気温の低下と共に、香気に対する感覚が鋭敏になるのと相まって、萎凋香が一層鮮やかに感じられる季節でもあります。年末の需要期を前に、急ピッチに進む再製作業。備前屋の上級茶は萎凋香ぞろいの器量良し。今年の春芽は天候が理想的で、萎凋工程に最適なシーズンでした。『やぶきた』も、『ふくみどり』も、『さやまどり』も良好な出来栄えです。
そんな粒ぞろいの平成26年度産でも断トツの存在。萎凋香No.1 … 5月7日製野木園手摘みふくみどり。この茶園の手摘み最終日ながら、数量に余裕があったので、蒸し製と釜炒り製の両方で製茶を実施。茶葉の質、天日萎凋のカギを握る天候とも文句なし。蒸し製では天日萎凋 → 日陰萎凋。釜炒り製では天日萎凋 → 日陰萎凋 → 屋内萎凋 → 揺青。双方とも心ゆくまで萎凋工程を推し進めることができました。
釜炒りは自ら製茶したけれど、蒸し製はもちろん茶工場に委託。だからこそ、同じ茶葉から異なる製法の茶が製造できる。これって素晴らしい事なのではないだろうか。それぞれの製茶方法の良し悪しが完全に同一条件で比較できるのだから。しかも今回の場合、最高品質の茶葉を使用しているので、個々の特徴を極めて高い水準で比べる事が可能。
品種の待つ個性を多方面から観察するには有効な方法の一つかもしれません。
狭山茶専門店 備前屋 清水敬一郎