今週初め、春芽の製造が無事終了。四月末日より足掛け5週間。期間中降雨は1日のみで、順調な一番茶でした。当初 茶園は芽数が少なく、減収予想だったものの、後半になるにつれ増産に転じ、久し振りに豊作の新茶でした。その理由は… 充分なお湿りによる良好な冬越し、霜害と無縁の四月の気温、摘採期直前から続いた夏日 etc. これほど天候に恵まれた年はめずらしいかもしれません。荒茶の外観も内質も萎凋香も良好です。
例年は春先に手入れを行う店の植木場。やっと職人さんの出番に。好天続きでジャングルのようだった植木に鋏が入り、「うちの植木はこんなに小振りだったかな ?」と思うくらい、すっきりとした佇まいに変貌。入梅に間に合いました。
今新茶期一番のトピックスは『ゆめわかば』の登場。一昨年改植した茶園が順調に成長し、今期より摘採が可能となり、3回に分け、100kg超えの生葉を手摘み。全量を釜炒り製微醗酵茶に製茶しました。ワイドスクリーンを掛けた影響で、茶葉の色は素晴らしい。そして節間の長い姿。特に3葉目と4葉目の間が非常に長い。ひょっとして、『ふくみどり』以上かもしれません。若木だからでしょうか? 蒸し製法では外観上のメリットがあるものの、釜炒りには、好適とは言い難い容姿です。
一芯三葉で摘まれた茶葉には、早速天日萎凋を施します。続いて、遮光ネットを張り、半日陰萎凋。その後屋内に移し、静置と撹拌を実施。生葉段階での萎凋香は悪くない。私の大好きな『ふくみどり』に比較し、物静かな香気。あるいは、『ふくみどり』の香気が饒舌に過ぎるのかもしれません。静置時間の経過とともに、少しずつ自己主張をしてくる… そんな印象の“かおり”… 線が細いながら、輪郭のくっきりした萎凋香です。
完成した荒茶… 手摘みゆえ、さほど 軸も気にならない外観。下葉の色も良好です。白毛が目立たない品種でしょうか。抽出液… 極めて淡い緑が差した、無色透明に近い水色。それなのに、驚くほどはっきりとした味。そして香気… ひと言で表現すれば、上品な萎凋香。3年前、蒸し製の煎茶で感じたのと共通する、気品のある香気です。
慣れ親しんだ『ふくみどり』の香気が恋人だとすれば、『ゆめわかば』は深窓の令嬢といったところでしょうか。
狭山茶専門店 備前屋 清水敬一郎