お正月。いつもながらアッという間に過ぎる三が日。元旦・二日は備前屋唯一の定休日。来客も電話もなく、心からのんびりできる時間でもあります。「年男」の習慣が残っている我が家では、元旦より三日間は若水汲み、神祭り、雑煮つくりは男の出番。さらには元旦祭etc. それ等を無事務め終えた開放感はあるけれども、正月の過ぎ行く寂しさは幾つになっても変わらないものです。
昨年末には、またもや降雨があり、十二月は三度の慈雨に恵まれました。園相は近年になく良好。季節風の強い日があったものの、おだやかな平成27年の幕開けです。
昭和五十年代、宇治からやって来た碾茶品種『ごこう』。その煎茶を備前屋の先代が「貴婦人のかおり」と称えた品種。その再現をめざし、今年度の新茶で長時間の「かぶせ」と萎凋処理を施しました。蒸し製の荒茶とその一部を釜炒りで処理したものを再製。この時期まで手をつけなかったのは、熟成してからの萎凋香をチェックするため。
もともと個性的な品種香を身にまとう『ごこう』。宇治生まれにもかかわらず、それは「雅」というより「過激」な香気。生産家によると、製茶工程の最中に一番“かおる”品種なのだとか。それでも、新茶時には物足らなかった萎凋香。熟成の極みにある今、再製を行います。蒸し製では、新茶期に比較し、味と香気のバランスが良好。明らかに香気が練れているように感じられます。釜炒り製は味がとても優しい。ただし香気の変化は感じられない。両者とも、萎凋香の印象は希薄でした。
『東方美人』の製造研修で知り合った宇治の抹茶問屋 山政小山園の小山澄也さんが、帰国直後に送ってくれた『ごこう』。それは素晴らしい萎凋香の碾茶でした。つまり、長時間の「かぶせ」と萎凋処理が理に適った手法である事は疑いのない事実。「貴婦人のかおり」再現に不足しているのは、いったい何なのだろうか。
狭山茶専門店 備前屋 清水敬一郎